10年目の春

今でも、いや、時が経つにつれて当時の映像を見ることができない。10年以上テレビのない生活をしていて本当によかったと、この季節になると思う。インターネットも余計な記事を見ないでここ1週間を過ごしてきた。

あの日の朝のこと、鮮明に覚えている。写真の仏陀像に朝日が差し込んで信じられないくらいに美しいお顔をしていて、うっとり眺めていたことを。いつもと表情が違うんだよな、美しいな、、、その半日後に、大地が揺れた。「神も仏もないじゃないか!」本気でそう思った。朝、あんなに美しい表情をしていたのに。どうしてなんだ?と。1週間、2週間と緊張の続く日々を過ごしていたと思う。桜が咲き始めた。こんなに悲惨な状況なのに、なんで桜は美しく咲くことができるんだろう。美しいから、余計に悲しかった。

記憶は10年経つと色々と曖昧になってくる。10年前のあのときの記憶。鮮明に、昨日のことのように思い出せるのは、朝日が差した美しい仏陀の表情だ。そして悲しいくらいに美しい桜。

毎年、この日になるとこの仏陀像に向かってつぶやく。

「死ぬまで、生き続けよう」 と。