山での出来事~ダージリン・シッキム 3~

お返しに、、、という訳ではないけど、今度は私がヤクさんの頭に手を載せてみる。
頭脳明晰な頭の持ち主――― きっと会社なんかではバリバリと仕事をこなすタイプなんだろうな。
ちゃんと地に足を着けることが出来る人なので、
どこにいても自分の心地よい居場所を見つけることができる。
外見も美しいし、なにもしなくとも人が寄ってくるタイプ。特に異性がウヨウヨよって来るタイプ。
旅をしていると、たまにこの手のタイプの人に会う。
別にドロップアウトしなくても実社会でちゃんとやっていけるのになんで?っていう人。
社会不適合者だけがドロップアウトしているわけではないという世の中。不思議。
手を胸の位置に置いてみる。
相当オープンな心の持ち主なので、ハートのチャクラだけは問題なさそうなんだけど、
かすかな「ひずみ」がある。なに?このひずみ?意識を集中してみるとなんだか苦しそうな表情になる。
どうしていいのか分からないので、ここで終了。
「癒しの手を持っているんだね、もっと人のために使わないともったいないよ」
私の手が癒しの手?確かに子供のころから肩揉みはうまいと親戚から褒められていた。
でもただの肩揉みである。
「私の手が癒しの手なら、世の中の人、みんな癒しの手の持ち主なんじゃないかな?」

こんな感じで数日間、ダージリンのドミトリーはヒーリングルームと化した。
不思議なことにやればやるほどお互い感覚が鋭くなっていく。
たとえば相手がほんの一瞬頭によぎった思いがなぜかキャッチできるようになる。
そう、急に「いや、その考えはおかしい!」と「うん、私も今それを考えていた」
言葉を使わない会話が成立してくるのが不思議。
そしてある日ヤクさんが言った言葉。
「ねぇ、あなたのカラダの奥深くに虎がいるんだよ。獰猛でものすごくエネルギッシュな虎。
でもね、今はまだ眠っている。そう、sleeping tiger。」
そんな感じで数日ダージリンで過ごし、もっと先のシッキムまで旅の連れとなる私達。
別々の宿を取っても、なんだか街角で再会したりして「じゃ、山登りにでもいきましょうか?」
「隣村まで行ってみよう」そんな感じで山登りやヒーリングを楽しんでいた。

そんなある日、朝起きた瞬間に「山を降りなさい、もう目的は達成されました。」という言葉が聞こえた。
、、、、確かに次の目的地があると言えばある。1ヵ月後にはネパールで友達と再会予定もある。
でも、、、こんな居心地の良い山の中、もう少し滞在したい。
この村にも慣れてきたし、他の旅人との楽しい出会いもあった。
もう少し滞在したい、、、、、でも、、、、
心の声にはちゃんと従わなくていけないことを経験から既に学んでいる。

旅の途中で知り合い、そして別れてそれぞれの旅路に進む。
何度も何度もそんな経験をしてきたけど、やっぱり楽しい時間を過ごしてきた人々とお別れするのは辛い。
「また、何処かで会おうね」さよならの代わりにそんな言葉を掛け合うのだけれど、
多分、再び会うこともない旅人たち。

ヤクさんにも挨拶していかなきゃな、でもやっぱり辛いな、、、黙って出発しちゃおうかな、、、、
ぼんやり考えながら村を歩いていると、前方からヤクさんがやってきた。
「あさって、山を降りることにしました。楽しかった、今までありがとうね」
「そうか、、、、だったら明日、ウチに泊まっていかない?美味しいレストランもみつけたんだ」
(そのころヤクさんは山の上で一軒家を借りて深い瞑想と山登りの修行の最中でした)
お呼ばれされて翌日山の中の一軒家を訪れた。
なんとも不思議な空間。周りの木々がものすごいエネルギーを発している。
「完全な調和」が取れている小さな空間。
、、、、こんなところを発見したヤクさんはやっぱりタダ者ではない。
水道も電気も通っていない山の中の家で長い時間語り合う。
「今度、生まれてくるなら私はこんな山の中に生まれてきたい。
都会や流行の遊びなんて知らなくていい。ただ山の自然に囲まれて穏やかに生きて死んでいきたい」
そんな来世への抱負?を語る私にヤクさんは
「自分は、、、、もう生まれ変わってこないような気がする。
今までたくさんの転生を重ねてきたことは分かっている。
でも、、、、自分には来世は来ないような気がしてならないんだ。
多分、これが最後の肉体の中の存在になるんだと思う。だから今、こうやって世界中を旅してたくさんの人との出会いを経験しているんじゃないかな?」

2度と会うことのない旅人同士。
ヤクさんには「また来世で会いましょう」とも言えない訳か。
私はまだまだカルマがいっぱいでまた生まれ変わってくるよ、きっと。
う~ん、この別れが益々辛くなってしまう。。。。。

横になってもほとんど眠れない時間が過ぎていった。
山を降りたら何処にいこうか?そこで何が私を待っているんだろうか?

ベットの正面に大きな窓がありそこから額縁に入ったかのように山が見える。
そろそろ朝が生まれる時刻だ。
ベットの中でぼーっと窓から見える山をみていると、、、、、、、、
その山から朝日が昇ってきた。
部屋に朝日が差し込む。部屋中が神々しいエネルギーに満ち溢れる。
なんて美しいのだろう。この世の景色ではない。私が今まで見たことのない美しい光景だった。
この美しさを独り占めするなんて勿体ない。
「ヤクさん、ちょっと起きてよ!」と隣のベットで眠っているその人の顔を見た瞬間、
全てを理解した。

遠い昔に、この隣で眠る人の魂に出逢ったことがあること。
何度も何度も出逢っていた、その当時の、相手に対して抱いていた
感情がいっきに私の中に流れ込んできた。
友人として、家族として時には人生の伴侶としてこの魂に対して私は様々な感情を抱いていた。
最初にヤクさんと会ったバスの中でどこかで会ったことあるけど思い出せなかった私。
なんで気づかなかったんだろう、もう何度も前世で会っていることに。

成田で、バングラディッシュで足止めを喰らったのも、
3日でカルカッタを脱出してしまったのも、
列車を直前になって変更したことも、
その列車で乗り過ごしたことも、
結局すべては山の中で「前世のお友達」と出会うためだったんだ。。
そしてヤクさんはどうやら最初から「前世でのお友達」であったこともわかっていたらしい、、、

そうだったんだ、、、、、、神々しい朝日を浴びながら身動きできない私の横で、
前世からのお友達は幸せそうにまだ眠りについている。

「おはよう、tigerさん」隣人がようやく目を覚ます。
何から話していいかわからない私は、
「ねぇ、日本人に生まれてきたことはある?」と聞いてみた。
「多分、生まれたことはあるとは思う。ブカブカのパンツを穿いて、髪の毛をきっちり結わいて、
、、、、サムライっていうのかな?そんな格好をしていたのを覚えているよ」
その時に出逢っていたのかな?
でも私自身はなんとなく日本に生まれてきたのは初めてのような気がする。
「1度、ヨーロッパに遊びにおいでよ。多分、tigerさんはヨーロッパに縁深い人だよ」
ヨーロッパ?私が?なんだか日本より縁遠い気がしてならない。
「いつか、招待するよ。ヨーロッパに」

出発の時間が近づいてきた。チャイを飲みながら車を待っている間も話を続ける。
お願い、まだ来ないで、車よ!!もう少し時間を頂戴!!
いくらインド時間の中にいてもいつかはその時が来てしまうものである。
「本当に、ヨーロッパにおいでよ。こんなこと、あんまり人に言わないんだけど。いつかおいでよ。」

「see you again(また会おうね)」なんだか白々しいような気がして言えなかった私。
もう会うことはないだろうけど、それが人生というもの、旅というもの。

「see you again, in this life」今生でまた会いましょう。
前世の友のこの言葉を最後に車は走り出した。

<終わり>

投稿者:

tigressyogi

1969年冬・東京に生まれる 世界放浪中にクリスタルの美しさに心を奪われ クリスタルショップ Tigress Yogi を立ち上げる 筋金入りの偏頭痛持ちだか、日本を離れるとなぜか頭痛は消える 米国クリスタルアカデミーIntermediateコース終了 出没地:インド、ネパールその他山岳地帯

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